戻る

八ヶ岳;天狗尾根    八ヶ岳の神話に心が弾む

直ぐに岩が出てきて右から巻き気味で登っていく。岩を巻きながら藪こぎをしていくと途中でぽっかり穴の開いたところがあった。穴というよりアーチになっていたが、いずれは崩れてしまいそうであった。気温は高く、登っていると暑い。上着はしまい、ズボンのチャックを解放して登る。雪が少なく、なかなか幕場になりそうなところが出てこない。藪が切れて岩稜となった手前を幕場とした。見た目はその後が急峻に見えたが、岩稜の後に幕場に適した場所があったのがわからず残念であった。テントは3〜5人用で余裕の広さがある。若干斜めなでその広さを十分に生かし切れなかったが、徳さんの夕食メニューはすき焼きだ。上等の牛の肉がいっぱい、ねぎに白菜など、そして酒もたっぷり、外は星空で言うことなしだ。

1月3日(火)
 朝から快晴。午後から霧との予報もあり、午前中の行動が重要だ。4時―7時の予定で、少し遅れで出発をする。すぐに岩稜となり、権現や旭がすっきりと青空に浮かぶ。背後からは、富士山が我々をじっと見つめているようだ。芝ちゃんのアイゼンの扱いも慣れてきたようだ。カニのハサミが天を切るように片腕を持ち上げている。左脇を抜けて岩峰を右から回り込むと、ザイルがフィックスされていた。アイゼンとピッケルと浅くつもった雪にけり込んで効かせルンゼを登っていく。途中からはスリングを繋いで、一応芝ちゃんを確保しながら安定した尾根に出る。

山行実施日;2012.01.02-03
参加メンバー;Hi.T、Sh.S、SG

1月2日(月)

西大宮に行くと、芝ちゃんは父に送ってもらってきた。父も昔はワンゲルで山を登っていたようだが、今は定年で余裕の生活を送っているようだ。とりあえず、芝ちゃんの父にあいさつをして出発をする。関東は曇りが覆っていたが、中央道を進むにつれて空が明るくなり甲府はすっかり晴れていた。甲斐大泉駅の脇を通ると、数年前に単独で天女山から夏沢峠経由稲子温泉に縦走したことを思い出す。そのとき知った天女山と美しの森や羽衣の池などの話し。
 瑞穂の国(日本列島)の神々が年に天の河原に集まってまつりごとの相談をする斎の庭として使われ、(「斎の森」と言われ後に言葉がなまって「美しの森」と呼ばれるようになったようだ。)それを歓迎する天女が羽衣を池で洗ったのが羽衣の池だとのこと。また、昔は富士山が八ヶ岳よりも背が低くかったが、気の荒い富士山の女神が八ヶ岳の男神の頭を長く太い棒で叩き、八ヶ岳の頭が八つに割れ、権現、編笠、旭岳、西岳、阿弥陀、赤岳などの峯ができたとのことだ。そして、鞍馬から大天狗がその話に深く同情し、小天狗に申しつけ赤岳山頂に社を建て、折れた頭を南東の山腹に置き、心やさしい姫に斎祭らせたということだ。これは大泉村教育委員会発行「おおいずみむら文化財地図」に載せられた話だが、こんな話を聞くと八ヶ岳周辺の散策に心惹かれる。

 さて、車は八ヶ岳横断道路を通り美しの森駐車場に到着をする。全く雪がなく、林道は土埃が上がりそうであった。ザックにワカンを付けるのは不自然さを感じながら全装備をつけ、ストックを持って出発をする。以前に計画したが、ラッセル敗退があることを知ってそのままになっていた。今回は、徳さんの誘いもあってその気になる。しかし、山靴での乾いた林道歩きは、足にまめができそうでちょっと辛い。ようやく地獄谷の堰堤が見えてきていくつか越えると出合小屋が現れた。入り口は紐で止めてあり、薪で戸口が開かないようになっていたが、非常用には使えそうであった。いよいよ赤岳沢の出合となる。雪はうっすらのっているが、末端から取り付く。

日程;
1/2()7:00西大宮駅-圏央道-中央道-須玉IC-10:00美しの森駐車場〜     川俣川林道〜13:30出合小屋13:40赤岳沢出合〜16:00天狗尾根     2100m付近BP
1/3()7:30BP-11:30カニのハサミ〜天狗〜16:10竜頭峰〜
     
真教寺尾根下降17:20 2400m付近BP
1/4()10:00BP12:20牛首山〜13:50賽の河原〜15:00羽衣の池〜       16:00美しの森駐車場-甲斐大泉パノラマ温泉-とんかつ屋-帰埼

1月4日(水)雪。

これまで降らなかった雪が降っている。冬山で雪がなくてはつまらない。歩くにも雪があった方が楽である。のんびりした朝を過ごし、10時に下山開始。長い尾根をタラタラと下っていく。ようやく牛首山に着くがまだ半分だ。ちょっとうんざり気味。賽の河原に着きスキー場の声が聞こえてからもまだ長い。羽衣の池を過ぎ、行きの林道の途中に出ると、来たときの乾いた林道がすっかり雪に覆われ様子が一変していた。ラッセルを心配していたアプローチもなく、天気に恵まれ、最後は雪景色の中で終わることができ最高の山行となった。芝ちゃんにとっては、昨年末からアイゼントレ等をしたが、実質的には初の雪山と言っていい八ヶ岳の山行を満足できたようでうれしい。私も体調を整えながらいつまでもたのしめるようにしていきたい。ところで、八ヶ岳の神話にある「山の頭を南東の山腹に置き」とあるが、赤岳からすると牛首山あたりが、南東になるのではないだろうか。そうすると、八ヶ岳の頭は「牛」ということになる。さて、どんなものだろうか。その地方の話というものはおもしろいものである。また、機会があったら、地域の資料を探りながら、八ツの山を訪れたいものだ。なかでも、阿弥陀にはごあいさつをしなくてはならないだろう。

ルート;美しの森〜天狗尾根〜赤岳〜真教寺尾根〜美しの

私は呼吸を整えることに精一杯で、徳さんと芝ちゃんが整地をしてテントを張ってくれた。真教寺尾根には雪が比較的多く乗っていたので助かった。私は、しばらく呼吸を整えてからテントに入る。どうして呼吸が苦しくなるのか、ここ数年考えてきた。どうやら貧血によることと水分補給が不足するため、血がドロドロになり、結果として呼吸が苦しくなっているように思える。日常的に適度な鉄分の補給と、行動中の水分補給が重要なのではないかと思える。今後、山を続けていくために十分注意していきたい。さて、広々としたテントの中で、のびのびとする。夕食はポトフ。ポトフをつまみながら酒を味わい、最後にラーメンを食べた。外に出ると、中央道や甲府、佐久などの灯りがはっきりと映し出されていた。なんと天気に恵まれた山行ができたのだろうか。夜をゆっくり過ごし、徳さんは一人でいつまでも余韻を楽しんでいた。

次の岩峰を回り込むと、いよいよ大天狗である。草つきのバンドから回り込んで最後の岩の下に出ると、足が切れていた。ハーケンが打たれ残置のスリングが揺れている。トラバースをしようとしたがちょっと不安定だったので直登を試みる。岩がぼろぼろでザイルがほしいところだ。芝ちゃんが手前で登ろうとするが行き詰まる。結局、私が直登するとしっかりした終了点がセットされていた。持っていたスリングをつないで芝ちゃんを確保する。徳さんは、なんで確保なんかするのかと言わんばかりに登ってきた。続く小天狗は円錐形で先が細くなって天を突いていた。左から回り込むと穏やかになった稜線の先に霧に隠れようとする赤岳が見える。キレットからつながる尾根にぶつかると阿弥陀が微笑んでこちらを向いていた。もういい時間になり、真教寺尾根下降が心配になる。下降点を確認し、鎖に捕まりながらゆっくりと降りていく。霧が我慢してくれていたので助かった。途中で頭電が必要になったころには、傾斜も少し緩くなる。私は呼吸が苦しくなりスピードが上がらず、ゆっくりと下っていく。どうにかテントを広げられる場所を確保する。