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鳥海山

この山には   大きな泣き虫がいる

山行実施日;2011.07.21-23
参加メンバー;hama、To.F、Yo.S

埼玉県勤労者山岳連盟の7,8月のカレンダーは鳥海山の写真だ。この鳥海山は十年前、小林栄さんリーダーで登っているが、その時は悪天候で途中で引き返している。このカレンダーの写真を見た時、今年こそ行ってみたいと思っていたところ、Sさんが計画してくださった。うれしかった。前回の経験もあるので、なんの不安もなくすぐに申し込んだ。酒田の町から見上げる鳥海山は富士山の形に似た秀麗な姿。緩やかで穏やかそうな山でこれから登る私にとってはなぜかホッとさせられる。鉾立登山口から出発。始めはコンクリートの石段、そして尾根道はドリルで割って同じ大きさにした石を敷き詰めた石畳が続いている。この工事をした人達は本当に偉い。七合目御浜神社に近付くころ、あちこちニッコウキスゲが咲き、我々を出迎えてくれた。神社にたどり着くと、静まりかえった鳥海湖とニッコウキスゲの黄色の絨毯の広い広い高原に思わず、深呼吸。平日だというのに、大勢の人達がのんびり美しい景観を楽しんでいた。ここで昼食をとり、山頂に向かった。

ここから山頂までは高山植物の宝庫。緩やかな高原のような穏やかな登山道。風が冷たく、猛暑から来た我々にとってこんなに気持ちの良いことはない。空は青空、高山植物を観賞しながら、ルンルン気分。階段状の道を下って着いたところが御田ヶ原。ダダッツ広く天気が悪かったり、霧だったら、自分の進む道を見失いそうな所。そして緩やかな八丁坂を登ると七五三掛。「しめかけ」と読むそうだが、つい、「しちごさん」といってしまう私。ここでも数人の人が休んでいた。ここまでは楽ちんコースで気分は最高。本当に今日は楽ちん山でよかったとホッとしていた。

さてここから運命の分かれ目。千蛇谷コースと外輪山コースに分かれる。私は千蛇谷コースのほうが楽そうでいいなあ、と、思っていたが、休んでいた登山者が皆、外輪山コースを指差していたのと、Sさんが、千蛇谷コースを覗き込み、雪渓の上に落石があるからと、外輪山コースを進むと判断した。

さっそく細い崖っぷちが現れた。(ギャオー。)眼下には樹海の広がりと日本海、水平線が飛び込んできた。今まで見たこともない景色。「地球は丸い」(ワオー。)すごいすごい。カメラにおさめたくても広すぎて、(いや、私カメラなし、実は。カメラにこの素晴らしい景色をおさめ、家に持ち帰りたい)この時ほどカメラが欲しいと思ったことはない。足元は高山植物が咲き乱れ、あの「チョウカイフスマ」も現れ、胸がおどる。景色はよかったのだけど、ここからの登りは岩場の連続、鉄の梯子を登ったり下りたり鎖はないものも、今までの穏やかな登山道とはうって変わり恐怖の連続。自分の口から出るものは、ため息、愚痴、恐怖の叫び。「嘆き節はもうやめて、明日はたっぷり時間があるから、嘆き節は明日にしてくれ」とSさんに叱られた。それからはぐっと口を閉じた。文殊岳、伏拝岳、行者岳と進むうち、今夜の宿、赤い屋根が見えてきて、うれしい。どんどん足が速くなる。時々千蛇谷コースを覗きこむと、雪渓の上に石がゴロゴロ。一人、二人と登山者が歩いているのが小さく見える。あの谷底を歩いている人はこの雄大な景色を見ることができない、周囲は火口壁だけで、花も少ないようだ。外輪山コースを選んでよかったと、思った。

先ほどまで、赤い屋根が近づいていたのに、気がつくと、だんだん遠くなっていて、ついに、新山や、七高山の近くまで来てしまった。赤い屋根の小屋は足元に。どうやって下に下りるの?小屋までの矢印があったが、自分たちの持っている地図にはないし、転げ落ちそうな急斜面。「こんなところがなぜ下りられないのか!」と怒り出すTさん。地図には行者岳から下りるようになっていた。「もどりましょう」とSさんに拝み頼む。プリプリ怒りながら、戻るTさん。歩くのに夢中でTさんも私も小屋へ行く道を見逃してしまった。

もう泣きごとを言ってる場合ではない。下に下りられなければ、今夜はこの尾根で野宿だ。夕暮れになったら、やばい。まだ太陽は高いから、大丈夫だと思ったが、自然に速足になった。やっと、行者岳の近くに下りる道を見つけ、やれやれ。ところが、そこは梯子に始まり、急斜面のすごい岩場、鎖もロープもない。わずかに、手掛かりとなる、岩場はあったが、もう生きた心地がしない。途中で四つん這いになって動けなくなった。真夏のアブラゼミのようにへばりついて、泣きだす自分。前と後ろでTさんとSさんがいろいろ叫んでいるが私にはその足場が見つからない。一生ここにいるわけにはいかないし、どうしよう、どうしよう。やっと、少しずつ足場を見つけ、谷底に下りられた。もう精神がクタクタ。ペたっつと座り込んだ。少し休ませてもらった。もうあの赤い屋根の小屋も見えない。後は岩場をかみしめるようにコツコツ登る。

先頭を登っていたTさんが「着いたぞ」と上から叫んでいた。よかった。神社の庭に着いたときはとにかく、「生ビールはどこだ?」と、騒いだ。ジョッキ生ビール一杯千円。一瞬『高い。』と、思ったが、うまかった。ビールのうまさが体にしみとおり、ブルブルと身震いした。夕方の影鳥海(日本海に浮かぶ鳥海山の影)水平線に落ちる夕日、そして、雲海。無事に登れたから、この景色を見ることができた。山小屋は平日なので、空き空き。一人三枚の毛布を私は五枚使って、いろいろ利用することができた。

翌日、早朝に私を除いてSさんとTさんが新山にチャレンジした。私は昨日の時点で新山には登らないと決めていた。新山は工事現場のコンクリートのがれきを積み上げたような山。そばに大物忌神社や山小屋がなかったら、まるで瓦礫の捨て場。こういう山も有り?。昭和49年に爆発したというから、まだ、新しい山なのですね。だから、新山。酒田の町から見えた優美な姿とは全く違う。驚いてしまいます。神社の庭から、二人が登って行く様子を見守った。Tさんが私に気が付き、時々手を振っていた。なかなかの余裕だ。二人の姿が見えなくなったが、しばらくしてすぐにまた戻ってきた。行き30分、帰り15分と言っていた。

下山は千蛇谷コースを一気に下った。今回の山で一番楽しかったのは雪渓の上をアイゼンをはいて歩いたこと。「ぼくの後ろを歩いてください」とSさんに言われたが、なぜか、ルンルン楽しい歩きで、Sさんを追い抜いて、制止された。もっともっと、雪渓が長ければいいのに、すぐ終わり。楽しいことは短いのですね。

「この山には大きな泣虫がいる」Tさんの言葉。Sさん御世話になりました。    (hama記)