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   川内下田・大谷川 鎌倉沢

    泣きたくなるほど苦しかったが

       終わってみれば楽しい思い出に


 大谷川鎌倉沢―ガイドブックには沢名の由来として「大きな曲折を見せる鎌形の沢筋と岩壁を意味するーから来たものと推察するが、その名の如く深いゴルジュを連続させる沢筋は狭く幕場も乏しい」とある。そのとおり、一日目、遡行開始から深いゴルジュが次々と現れる。ザックを浮きにしてザイルで引いてもらったり、首まで水につかりつま先立ちで何とか通過したり、泳げない私は最初からの苦戦だ。お昼ごろから急にカミナリが鳴り出し雨も降り始めた。
暫く様子を見るが繰り返すカミナリはなかなか鳴り止まず遡行を諦めることになった。まだ時間は早いが少し広くなった木々の間が幕場にちょうど良いとタープを張り始めた時、突然激し雨とカミナリ、たちまち沢の水は茶色に濁り増水したのがすぐに分かった。向かいの山肌には幾筋もの真っ白い滝が勢いよく流れ落ちている。タイミングよい判断で沢から上がったことにホッとした。ようやく雨が上がったころには、たき火を囲みお酒とリーダー特製のブタ丼の夕食でのんびりとした時を過ごす。たき火は沢登りの楽しみの一つだ。

二日目、朝には沢の水も基に戻り、再び遡行を羽決める。前日にもまして深いゴルジュ続きで、皆が次々とクリアしていくへつりを私は手取り足取り助けてもらいやっと通過することが多く、緊張の連続、おまけに不用意に出した足が急流にすくわれ滝壺に落ちてしまった。意外とスウーッと浮き上がり岸に引き寄せられてやれやれだ。大きな雪渓のトンネルが三ヶ所もあった。亀裂が入りボタボタ水が滴り落ちる中を走ってくぐりぬけた。標高差700bでこんなに雪が残っていることに驚いた。けれども沢の水はそれほど冷たくはなかった。   

       

 少し狭いが、小高い草地が二日目の幕場となる。狭いので焚き火はできない。しかし昨夜と違い、風通しがよく虫も少なく、横になると頬に当たる風が心地よい。空は星がきれいで雨の心配もない。ヘッドランプを消すとなんと滝の近くでホタルが小さな光を放っていた。

 三日目、大きな滝はあと少しとなるが、まだまだ気が抜けない。30b三段、150b白滝はザイルを出してもらい慎重にトラバースする。朝から夏の陽射しが照りつけ岩肌が焼けるように熱い。
 ようやく沢も細くなり滝も小さくなってホッとする。段々水量も少なくなるころ、皆で熱くなった体を冷やそうと頭まで水につけて最後の水浴びを楽しんだ。沢が涸れる前に水を取り、少しのヤブこぎで山頂へ出た。ここからが長くて苦しい下山となる。
 ほとんど踏み跡のない灌木帯の中を両手でかきわけながら進む。途中少し道らしくなるときもあるが、また不明瞭になりその度に道を探し方向を確認しながら進んだもう少しというところまで下山したが、暗くなり小さな沢を徒渉するあたりで道が分からなくなってしまった。それでもなんとか植林帯に入り、しばらく歩き続けてようやく林道へ出ることができた。一晩のビバークかしらと内心不安に思ったりしたが、本当に良かった。

私にとってはレベルが高く、泣きたくなるほど厳しく苦しい山行でしたが、終わってみれば山行中の出来事の一つ一つがとても楽しく思い出されて、最高の時を過ごせたという思いです。メンバーの皆さんには大変お世話になりありがとうございました。    (To.U記)