戻る
山に来て人を知る「安房高山編」

 「助けて下さぁい。O知さぁん、ロープ、ロープ」振り向くと下の方でF田美子さんが叫んでいる。しかし、見上げれば前方では私の夫で呼ばれた本人の「O知さん」は、S古和子さんをザイルで補助しているところである。・・・こう書くと、すごく大変な山に来てしまったようだが300メートル級の尾根歩きの軽いハイキングの予定であった。

 実際は、アップダウンが結構有り軽いハイキングにしては登りがいがある。アップダウンの連続なので、呼吸が苦しくなるほど登りが続かず、何とも快適な山歩きを楽しんでいた。

こんな私と対照的にリーダーのK原塚さんはすごい。地図を読み走り回って道を探し、皆を誘導する。実は今回何度も道に迷った。途中まで確かにリボンを確かめて入ったのに、枝をつかみバランスを取って滑る道を必死に下ってみると藪の中。はるか下の方からK原塚さんが叫ぶ。「戻りますー。」誰も口には出さないが、たぶんリーダーを含め全員が(ああ、せっかく下りたここをまた登るのか)と思ったことだろう。

 陽は西に傾き、さすがに疲れも出てザイルのお世話になる人も出てきたというわけである。夫は「初めてザイル使っちゃった。」と人に頼りにされてなんだか嬉しそうに走り回っている。

 それにしても、F田美子さんとは、口が達者なしっかり者と感じていたが、「きゃあ。助けて。コワ〜イ。」と言っている姿は誠にかわいらしい。そうか、こうやって人に頼るというのはかわいい妻のコツかな?と妙に納得したりする。

 以前、夫と共に山に誘われた時に夫婦げんかになったことがある。出発時間前とはいえ、夫だけが現れない。早く!といってもマイペースを貫く。協調性無い、と言ったらヘソを曲げた。(こういうきついことを言う妻はかわいくはないのだろうな。)美子さんを見習ってかわいくなろう。

 さて、K原塚さんが藪を抜け、下山道を探して戻ってきてくれた。(助かった、と思った。)夕方が近づき寒くなっていた。それにしてもK原塚さんは頼れるリーダーで、いい意味で男らしい。ほれぼれする。攻撃型のマドンナ、と思う。

 夜は南荘に宿泊。おいしい料理と暖かいお風呂。お酒が入っての語らいはみなさんの人柄が分かって興味深い。山とは、人とは。

 帰りの車の中でO栗さんが教えてくださった事がある。(ヒマラヤの話を聞いて技術や体力をほめた私に対して、一言!)「一番大事なのはねぇ。体力や技術ではなくて協調性よ、協調性。これがないとね、高い山には登れないのよ。」 あー深いです。

 山の話は人生にも通じるんですねぇ。「協調性が一番大事らしいですよ。」私は隣で運転している夫に声をかけたのだった。                       (Kz.Oさんの奥さん記)